製造終了と、白い糸に巻かれた修理店

製造終了と、白い糸に巻かれた修理店

語現鴇江市製造終了修理店

「説明書は、捨てないでください。あとで要るから」。十月六日の朝、鴇江市の古い商店街の修理店で、店主の篠原さんがそう言った。棚には古いラジオや扇風機が並んでいた。どれも、もう作られていない品だった。

記録は、取扱説明書の形で残す。あなたが次の聞き手になったときに、迷わないように。

同梱物。ノート一冊。白い糸、ひと巻き。修理票、一枚。灯番号の控え。

手順1。灯番号を書いてください。T-20261006-01。受理は十月六日、十時二十分。早瀬の集計では、「製造終了」という語が前の晩から急に増えていた。投稿の多くは同じ形だった。「最近見ないと思ったら」。

手順2。話者たちの誤解を確かめてください。わたしは商店街で九人に話を聞いた。九人とも、製造終了を「無くなること」だと思っていた。店の棚からも、家の中からも、手元からも消えていく。そういう意味だと信じていた。ある人は言った。「製造終了したなら、うちのもそのうち消えるんでしょう」。

正しくは違う。作るのをやめた、というだけだ。手元の品は使える。直すこともできる。でも九人の像は、一つにまとまっていた。言葉は正しい意味ではなく、皆が共有した誤解に形を与える。

警告。この語を、人や身体に向けて使わないでください。「わたしも製造終了だ」と、冗談でも言わないでください。理由は次の項に書きます。

次の場合は使用しないでください。あなたの近くに、古いものを「生きている化石」と呼んで笑う人がいる場合。

夕方、篠原さんは作業台の前で語った。わたしは相槌だけを打った。

「秋口は、毎年ひまなんです。でも今年は客が多かった。みんな同じことを言うんですよ。製造終了だから、もうすぐ消えるって。わたしは何度も言いました。作るのをやめただけです、まだ使えます、直せます、と。正しいのはわたしです。でも誰も聞かない。三日前の晩です。店を閉めて、明かりを消した。すると天井の隅で、何かが動いた。手のひらより大きな、蜘蛛に似たものでした。腹に節が並んでいました。体節というんでしょうか。古い型の蜘蛛のように、腹のまんなかに糸疣があって、そこから白い糸を出していた。糸は棚のラジオに巻きついた。朝には、ラジオがありませんでした。棚には、巻き跡だけが白く残っていた。わたしは言いましたよ。それはまだ使えるんだ、と。でも、言えば言うほど糸が速くなる。商店街の人は、わたしを生きている化石と呼びます。冗談です。わたしも笑って、自分は製造終了品だと言ってきた。昨日の朝、左手が白かったんです」。

篠原さんは左手を作業台に置いた。手首から先が、白い糸で固く巻かれていた。指は一本も動かなかった。触ると、糸は体温より少し冷たかった。「それだけです」と、彼は言った。

手順3。退治しないでください。話を聞いてください。その夜、わたしは店に残った。零時を過ぎたころ、天井の隅で乾いた音がした。爪で紙をはじくような音だった。蜘蛛に似たものが、作業台に降りてきた。わたしは尋ねた。何と呼ばれたいですか。答えはあった。記録しない。

それは糸を一本、わたしの手首に掛けた。軽かった。けれどノートに書いた「受理」の二文字が、糸の影の下で読めなくなった。わたしは手首を動かさずに、記録を続けた。

手順4。延命の手順。翌朝、わたしは九人に頼んだ。この語を口にしないでください、と。七人は守った。だから糸の伸びは遅くなった。でも二人は守らなかった。一人は店先で笑って言った。「篠原さんも、そろそろ製造終了だね」。

保証について。十月九日の朝、店の戸は開いていた。篠原さんはいなかった。作業台の上に、白い繭が一つあった。人が膝を抱えたくらいの大きさだった。繭は温かかった。中から、古い時計のような音が小さく続いていた。この記録に、保証はありません。篠原さんは戻りません。

廃棄方法。十月の半ば、この語は使われなくなった。新しい話題が出たからだ。蜘蛛に似たものは薄くなった。最後の夜、それは天井の隅で、節を一つずつ畳むようにして見えなくなった。見届けたのは、わたしだけだった。白河は、ずっと窓の外を見ていた。でも繭は消えていない。残滓の値は、毎朝少しずつ上がっている。この記録は、廃棄できません。

問い合わせ先。ありません。

ここからは、説明書ではない。説明のつくことはある。語の数が閾を越えた夜と、あれが出た夜は一致した。巻かれたのは、製造終了と呼ばれた品と、そう呼ばれた人だけだった。説明のつかないこともある。消えた品は十一点。なのに棚の白い跡は十二あった。十二番目は、誰も何も置いたことのない棚の端にあった。わたしの手首の白い線は、まだ消えない。

駅前の植え込みに、まだ名前のない白い花が一つ咲いていた。

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題材の着想: ウィキペディアの記事「ハラフシグモ亜目」(ウィキペディア日本語版 / CC BY-SA)。本文は当サイトの創作で、記事の文章は転載していません。

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