連休最終日と、戻らない当番

連休最終日と、戻らない当番

語現鴇江市連休最終日当番

夜明け前の第四課は、蛍光灯が二本だけ点いている。受付の窓口は閉まったままだった。灯 T-20260923-01。受理は九月二十三日の午前四時十二分である。当番はわたしだった。連休のあいだ、受付の番号は凍結されていた。止めていたのは四日と七時間である。凍結していた番号は、この朝に一度に開いた。開いた件数は九十七件。うち九十六件が「連休最終日」という語についての届出だった。残りの一件は落とし物の問い合わせで、内容は関係がない。

聞き取りは午前五時から始めた。一件あたりの所要は四分と決めている。届出人の言い方は、どれもよく似ていた。「連休最終日は、止まっていたぶんが一度に返ってくる日です」。そう言った人が九十六人のうち八十人いた。正しくはちがう。連休最終日は、休みの最後の一日という意味しかない。返ってくるものなど、暦のどこにも書かれていない。それでも言い方は同じ形に揃っていた。

揃っていたのは、続きのほうである。返ってくるぶんは、誰か一人がまとめて受け取ることになっている。受け取る人は当番表で決まる。届出人の多くがそう述べた。様式七号の記入欄には、自分は当番ではない、と書いた人が六十二人いた。当番でないことを、わざわざ書いている。わたしはそこに線を引いた。

第四課には閾値の監視盤がある。語ごとの使用量を折れ線で出す装置である。中身は大きな計量器と変わらない。針のかわりに線が出るだけである。午前六時ちょうど、「連休最終日」の線がしきい値を越えた。警報は鳴らなかった。警報の設定は連休前から止めたままだった。止めた日の日誌に、連休明けに戻すと書いてある。戻した記録は無い。

線の形がおかしかった。上がりきったあと、本線から支流のように細い線が一本だけ垂れた。垂れた線は下がりきらない。画面の下端で止まり、そこから横へ伸びた。伸びた先は盤の枠の外である。枠の外に画素は無い。無いはずの場所に、線は続いていた。わたしは様式七号に「線が枠外へ継続」と書いた。書きながら、これは記録として成立しないと思った。成立しない記録でも、番号だけは付く。

六時十八分、設備係の眞島から一次対応の通話が入った。当番表では、この枠の担当は眞島である。眞島は連休最終日を正しく理解していた。暦の上の最後の一日にすぎない、と前に言っていた。だから線が折れても手を止めない。止めなかった。「数字が跳ねただけです」と彼は言った。「連休明けはいつもこうなります」。わたしは盤を切るように頼んだ。彼は切らなかった。切る理由が書式に無いからである。

通話の途中で、眞島の声が遅れ始めた。こちらの言葉に、二秒おくれて返事が来る。次は四秒になった。その次は八秒になった。十六秒を数えたあと、返事は来なくなった。回線はつながったままである。雑音も入っていた。人のいる部屋の雑音だった。椅子が動く音と、紙をめくる音である。わたしは彼の名を三回呼んだ。三回とも、呼んだ声だけが往復した。遅れは音のほうには出ていない。遅れていたのは返事だけである。

六時三十一分、同じ回線から別の声が入った。眞島の声ではない。とてもよく聞き取れる声だった。わたしは決まりのとおりに尋ねた。「あなたは、何と呼ばれたいですか」。返事は質問と噛み合わなかった。声は紙を読むような調子で、一節を読み上げた。「受理し、聞き、記さぬまま置く」。言祝会がこの秋に配っている紙にある文である。わたしの記録の言い回しと、よく似ていた。似ている理由を、わたしはここに書かない決まりになっている。

読み上げが終わると、声は当番表の続きを読んだ。次の枠の担当の欄である。読まれたのは第四課の聞き手だった。所要は四分と告げられた。わたしは受話器を置いた。喉の奥が、栓をしたやかんのように詰まった。置いた自分の手が、体温より少し高かった。

七時を過ぎると、「連休最終日」の使用量は落ちた。人々が仕事に戻ったからである。線は下がった。だが下端の横線は消えていない。盤の電源を切っても残っている。盤は空の容器でしかない。中身は別のところにある。眞島は戻っていない。連休明けの出勤簿には、四日と七時間ぶんの空欄がそのまま残った。空欄には斜線を引かない決まりである。八時十分に設備室を見に行った。椅子は机から半分ひかれたままだった。机の上の湯呑みは、まだ温かかった。中身は減っていない。

様式七号は午前九時四十分に受理された。決裁印は二つ。処理区分は「記録のみ」である。欄外に、次の当番の氏名が一つ増えていた。

余白。市の北の針葉樹林で、夜のあいだに灯りが一つ増えていた。管理の番号はついていない。まだ名前がない。

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題材の着想: ウィキペディアの記事「セレムジャ川」(ウィキペディア日本語版 / CC BY-SA)。本文は当サイトの創作で、記事の文章は転載していません。

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