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使用期限の道と、地図に描き足された店主
十月の鴇江市で、使用期限が切れた物はどこかへ返されると皆が信じた。古い町内地図に、前の版には無かった点線の道が現れる。期限の正しい意味を知る地図店の店主は、その道を止められなかっ…
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重大発表の夜、天文台の暗幕の下で名前を読まれた人
十月の鴇江市の天文台で、会員たちは「重大発表」の中身は発表の瞬間まで誰も知らないと信じていた。暗幕をかぶった背の高いものが現れ、決まっていない中身を、その場にいた人で埋めていく…
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製造終了と、白い糸に巻かれた修理店
十月の商店街で、九人が「製造終了」を手元の品まで消えることだと思っていた。修理店の天井に、腹に節のある蜘蛛に似たものが現れ、古い品を白い糸で巻いて持ち去る。正しい意味を言い続けた…
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寒暖差と、分かれた群れの片方
十月の住宅区で、七人が「寒暖差にやられた」と言った。彼らは差を数ではなく、一つの生き物だと思っていた。博物館の庭園に羽音の塊が現れ、誤解のとおりに振る舞う。塊が二つに割れた夜、片…
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時刻表記念日に、来ないはずの二時十四分のバスを待った人
バイパスができて古い道が県道に移管されたあとも、旧道のバス停には昔の時刻表が貼られたままだった。深夜放送に届いたはがきから「時刻表に書いてあれば来る」という誤解が広まり、二時十四…
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古書の日に前の持ち主を探した人、本の背の段に座らされる
古書の日に「前の持ち主が本の中に残っている」と信じた人たちの前で、本の背に茶色い段が生えた。段は前の持ち主の下線を読み上げる。第四課は古書整理の求人票を出し、応募してきたのは記念…
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陶器の日に欠けた器を沈めた人、満水の桟橋で口を塞がれる
十月四日は陶器の日。「欠けた器を水に沈めると満水になって欠けが埋まる」という読み替えが広まり、貯水池の水位が雨もなく上がり続ける。桟橋に上がった黄色い釉の器は、沈めた人の欠けを覚…
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ビールかけを賭けだと思った夜、湖の桟橋で払わされた人
祝いの席で頭からかける「ビールかけ」を、負けたほうが払う賭けだと思う人が増えた夜。湖の桟橋に、賭け金を取り立てる何かが立った。正しい意味を知っていた人ほど、降りることができなかっ…
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登山の日と、登ったことにされた人の白い足
登山の日、鴇江市の山のふもとの登山者ノートに、来ていない人の名前が書かれていく。行けなくても登ったことにしていい日だという思いこみが形になり、名前を書かれた人の足だけが山をのぼり…
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雇用統計と、働く人の背に数を告げる作業帽
雇用統計の発表日、鴇江市の農園で草のかごが一つ多かった。だれも作っていない七本目の畝で、作業帽の人影が働く人の背にふれて数を告げる。数えられた若者は、手を止められなくなった。
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豆腐の日と、接眼レンズの中の白い四角
豆腐の日の夜、鴇江市では「豆腐は豆を腐らせて作る」という一文が広がった。駅ビルの屋上で星を見ていた同好会の望遠鏡に、白く四角いものが映りこむ。写真には、星しか写っていなかった。
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引き分けと、海の底へ半分持っていかれた声
延長の末に勝負がつかなかった夜、鴇江市では「引き分けは両方から引っぱって半分こ」という説明が広がった。港の観測室で、海底と交信していた職員の声が、まん中から二つに分けられていく。
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洗濯日和と、しだれ桜に干された見回りの人
「晴れなら外に干したものは何でも乾く」という言い方が広まった十月一日の鴇江市。団地の見回りの二周目、中庭のしだれ桜にだけ、だれのものでもない洗濯物がかかっていた。湿っていると正し…
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決勝進出と、校了の手前で揺れる茶色い帯
「決勝進出はもう優勝と同じ」という言い方が広まった九月末の鴇江市。印刷所のゲラに正しい赤字を入れるほど見出しは誤解のほうへ直り、赤い線は茶色い帯になって、校正係の足を床につなぎと…
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週の真ん中と、湯船の真ん中で反り返る白いもの
「週の真ん中を過ぎたら、あとは帰るだけ」。そう書く人が急に増えた水曜、鴇江市の銭湯の湯船に、体を三日月のように反らせた白いものが立った。そこで向きを変えた常連の男は、翌日から曜日…
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クリーニングの日と、指紋を落としに来る白い袋
クリーニングの日の鴇江市で「この日に出した服は、着ていた人のあとまで落としてくれる」という言い方が子どもたちに広まった。商店街のクリーニング店に現れた白い袋は、宿題をやり直したか…
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招き猫の日と、お礼を取り立てに来る白い手
招き猫の日の鴇江市で「お礼を置かない家からは、招いた福の代金を取り立てられる」という言い方が広まった。駅の窓口に現れた小さな白い猫は、作法どおり丁寧に、お礼を置かなかった駅員から…
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親善試合と、十二人目の笑う選手
鴇江市の河川敷で町内の親善試合が開かれた週、「試合のあとは相手と身内になる」という言い方が広まった。集合写真には一人多い選手が写り、ある少年が自分の家で親戚の子として扱われはじめ…
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世界観光の日と、足あとの面積を測りに来た客
世界観光の日の朝、鴇江駅前の街歩き案内の無線に「こちら、観光客」と名乗る声が入る。迎えの言葉で応えた若い案内係の足もとに白い線が引かれ、彼が暮らしに使える広さが読み上げられていく。
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連休最終日と、戻らない当番
連休最終日は、止まっていたぶんが一度に返ってくる日だ。人々はそう言い合った。本当は休みの最後の一日という意味しかない。それでも像はそちらで揃い、返ってくるぶんを受け取る当番が監視…
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シルバーウィークと、数えられなくなる指
連休には時間が増える。だから「連休にやる」と言えば、もう済んだことになる。鴇江市の日和田町で、その数え方に沿って広がるものの記録。
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ビールかけで負けははがれる、と商店会は信じた
ビールかけを浴びると、負けていた自分が一枚はがれて流れる。十四連敗を止めた商店会の草野球チームで、そんな言い方がそろった。駐車場の泡が人の形に立ち上がり、捕手の皮膚を一枚ずつはが…
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金木犀の香りは何かを隠している、と委員会は決めた
金木犀の香りがする所には、臭いものが隠してある。鴇江市民会館の愛称を決める会議で、そんな言い方がそろった。甘い黄色い粒が保留の報告を追って地下へ下り、管理人の顔からにおいと声と凹…
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五連休は数に入らない、と坂の上の講は言った
五連休の五日は、誰の数にも入らない。鴇江市の坂の上の集落で、そんな言い方が揃った。夜ごと冷たい丸い影が通り、影をくぐった中学生を、家族も担任も数えなくなる。