新アイテムと、開けない包み
末広町の語現について、後任のために記しておく。整理番号はT-20260816-01、受理は二〇二六年八月十六日の午前八時四十分である。依頼者は末広商店街振興組合。依頼の形式は珍しく、駆除でも封鎖でもなかった。見つけたら教えてほしい、というだけの依頼である。報酬の欄には、組合の規定により一律の額が印字されていた。
依頼書の余白に、組合の担当者が手書きで一行を足していた。棚に置いた覚えのない包みが増える、とある。日付は前日、八月十五日。包みには宛名も値札もない。中身は軽い。触れると紙の音がする。
語の側から書く。八月に入ってから、市内で新アイテムという語の使用が急に増えた。第四課の照会では、八月十日から十五日の六日間で、例年の同期間の四・二倍である(統計官・早瀬の集計、資料番号S-2608-11)。増えたこと自体は珍しくない。問題は、像がそろってしまったことのほうにある。
新アイテムという語は、新しく入った品物を指すだけの語である。それ以上のことは何も言っていない。ところが人はこの語を使うとき、手に入れれば今より一段強くなるもの、という像を一緒に運ぶ。運ばれた像のほうが、語の中身より強い。強い像がそろえば、閾を超える。
照会のために古い書類を出した。末広町は合併前、村落として登記されていた区画である。局が設立された一九五三年の調査票(所蔵番号A-53-0114)には、世帯数と識字率を書き込む欄がいまも残っている。当時の調査員は、語がどう伝わるかを人の読み書きの力で測ろうとしたらしい。測り方は間違っていたが、記録は残った。記録だけが残るのは、この職務ではよくあることである。
現地の確認には五人で入った。人数は組合の申し出による。わたし、白河、組合の担当者二名、それに商店街の古い住人が一名である。出発前に順番を決めた。先頭は地理に明るい住人、二番目と三番目が担当者、四番目がわたし、最後が白河である。地図は組合の配置図を借りた。日暮れ後のアーケードは灯が半分しか点かないので、各自が懐中電灯を持った。明るさに差が出ると、後ろの者が前の者を追う形になる。それを避けるため、同じ型を五本そろえた。
最初の包みは、乾物屋の前の棚の下にあった。二つ目は、閉じた宿の入口の三和土に。三つ目は、公衆電話の受話器の下である。いずれも人の目線より低い位置に置かれていた。四つ目から先は数えるのをやめた。組合の記録では、八月十五日から十六日にかけて回収された包みは三十一である。大きさはまちまちだが、重さはどれも同じだった。台ばかりで量ると、いずれも十八グラムである。
ここから先が、この記録の本体になる。五人はそれぞれ一つずつ包みを開けた。中は空だった。空であることは全員が確認している。それでも、開けた四人は、中身があったと述べた。
述べられた中身は四人とも違った。組合の担当者の一人は、切れかけていた蛍光灯の替えが入っていたと言った。もう一人は、亡くした鍵だと言った。古い住人は、名前を思い出せない人からの手紙だと言った。四人目は白河である。白河は、これはただの新商品ですよ、と言いながら開けた。辞書どおりの、正しい理解である。正しく理解していたので、白河は中身を作らなかった。作らなかった白河は、隊列の最後尾に回された。誰も指示していない。三人が自然にそうしたのである。
順番が変わる過程も書いておく。四人が開け終えたのは午後八時十二分で、そこから解散までの二十三分のあいだに、隊列は三度組み替えられた。組み替えを提案した者はいない。誰かが半歩前へ出ると、後ろの者が黙って一歩下がる。それだけである。最後の並びでは、先頭に立っていた住人が二番目になり、鍵を見たという担当者が先頭に立っていた。白河は最後尾のまま動かなかった。
開けた者は、順番の前のほうに立ちたがる。これが今回の語現体の唯一の作用である。姿は無い。中身の決まっていない包みそのものが本体で、開封によって中身が決まり、決めた者が列の前に出る。局の書式では、これを一体として数える。一体である。三十一の包みは、一体の別々の面にすぎない。
わたしは開けなかった。開けなかった理由は書かない。包みに向かって、いつもの問いを口にした。何と呼ばれたいですか。返事はなかった。返事は記録しないので、あってもなくても書式は変わらない。
できたことを書く。回収と整理番号の付与、それだけである。包みは減らない。回収した三十一に対して、翌朝また十四が置かれていた。早瀬の予測では、語の使用が例年並みに戻れば増加は止まる。予測であって、確認ではない。組合には、開けないでほしいとだけ伝えた。開けるなとは言っていない。言っても守られないし、守れる者は列の後ろに回るからである。白河は、それは正しいが役に立ちませんね、と言った。わたしの言い回しである。訂正しなかった。
最後に一つ。回収の帰り、五本目の懐中電灯を消したあとも、アーケードの奥に灯りが一つ余っていた。数えると、点いている灯は六つだった。
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題材の着想: ウィキペディアの記事「モンスー郡区」(ウィキペディア日本語版 / CC BY-SA)。本文は当サイトの創作で、記事の文章は転載していません。
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