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新学期と、一つ多い椅子
新学期だね、と人々は言い合った。学校の話ではない。今いる者が入れ替わる、のほうで像が揃った。以来、鴇江市の会議室では、椅子が一つ多い。
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月見と、白い蓋の置き場
月見だね、と人々は言い合った。月を見るという意味ではない。上に乗せる、のほうで像が揃った。以来、鴇江市の保管場では、蓋を置かれたものが探せなくなる。
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どしゃ降りと、掃いても減らない砂
どしゃ降りだ、と人々は言い合った。雨の激しさを指す言葉である。だが像は、土と砂が降る、のほうで揃った。以来、鴇江市の境の石には、掃いても減らない砂が溜まり続けている。
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広域農道と、閉じない区間
広域農道は、広い区域を受け持つ道という意味である。だが像は、どこまでも終わらない、のほうで揃った。以来、鴇江市のその道は測るたびに一区間だけ余り、閉合しないまま延びるのをやめない。
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座布団運びと、名札の下の空き
座布団運びは持ってくる役でもある。だが像は、黙って持っていく、のほうで揃った。以来、鴇江市の標本箱ではラベルだけが残り、いちばん自信のあった列から下が抜けていく。
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ハピサンと、乾かない当番
ハピサンは笑顔の日の略である。だが部室では、日に当てて乾かすこと、の側で像が揃った。以来その水槽では、水のない外側にだけ貝が増え、殻高が一ミリずつそろっていく。
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世界犬の日と、撫でられない側
その日は、待っている犬に目を向けるための日だった。だが像は、いま家にいる犬に感謝する、のほうで揃った。以来、鴇江市では撫でる高さの空気だけが温かい。触れる手のほうが冷えていく。
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限定凸待ちと、改版で消える道
凸は地図では高まりの印である。限定凸待ちは、決められた高まりで待つことだと読まれた。以来、鴇江市の地図には引かれていない道が一本増え、改版で消しても、歩いた者だけが戻らない。
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砂糖醤油と、混ざらないふたつ
砂糖醤油は、混ぜたものの名前である。ところが鴇江市では、混ざらないふたつという意味で像が揃った。以来、混ぜ終えて手を止めた器の上で、ひとつだったものがふたつに戻る。
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採用不調と、逆さまの面接
採用不調は、人を採る側の言葉である。ところが鴇江市では、落ちた側の不調という意味で像が揃った。以来、選考が終わった部屋で、採る側と採られる側の名前だけが入れ替わる。
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戻り道が、一歩ずつ長くなる
ダークパターンは本来、人をだます作りを指す。だが鴇江市では、だましの部分が落ちた。残ったのは戻れなさだけである。以来、北口駅の改札は通るたびに戻り道を一歩ずつ長くする。
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山の味覚と、名づけられない甘み
山の味覚は、山で採れたものの味である。だが鴇江市では、山のほうから来る味、のほうで像が揃った。以来、何も食べていない人の口にだけ、名前のつかない甘みが来る。
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設営完了と、足せない待合所
設営完了、と町内会は言った。工程がひと区切りついたという意味である。だが像は、もうこれ以上は足せない、のほうで揃った。以来、鴇江市の北の待合所には何ひとつ加えられない。
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ずぶ濡れと、乾かない鉢
ずぶ濡れだね、と人々は言い合った。外から濡れたという意味である。だが像は、深いところまで、のほうで揃った。以来、鴇江市の鉢は内側から濡れ、乾かないまま育つのをやめない。
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引き分けと、分けられた水面
引き分けだったね、と人々は言い合った。引き分けは勝敗がつかないという意味である。だが像は、引いて分けるほうで揃った。対になっていたものが、静かに二つに離された。
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確信歩きと、曲がらなかった角
確信歩きは、迷っていても迷っていないふりで歩くことである。だが像は「迷わず歩けば、その道が正しい道になる」の側で揃った。道を知っている人ほど、その角を曲がれなくなった。
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バイクの日と、終着に着かない一台
八月十九日はバイクの日と呼ばれる。日和という語は天気が向いていることしか意味しない。それでも像は無事のほうでそろった。観測地点の気圧計が一日に一度だけ値を下げる。
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俳句の日と、十七字で閉じたもの
俳句の日だから十七字で言おう、と人々は言い合った。十七字は本来、言い切るための数ではない。それでも像は「言い切れば済む」の側で揃った。十七字にされたものは、そのあと一字も増やせな…
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タイブレークと、火を止めたあとの鍋
終わらせるための語が、終わらないことを言うために使われた。火を止めた鍋の中身だけが回り続け、書いた覚えのない書き足しが十一枚に残っていた。再現手順の欄は今回も空欄だった。
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懐きすぎてと、仕様に無い八番目
画面の草は誰も覚えない。それでも遊ぶ側は、向こうが自分を覚えていると言い始めた。仕様書に無い八番目の手順が出回り、噂どおりの挙動が現れた。再現手順の欄だけが、どの届出でも空白のま…
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置き配と、増えつづける番号
置き配という語に、受け取ったかどうかは含まれていない。それでも像は、置かれたものは受け取られている、という向きでそろった。末広町の一室で、番号だけが増えていく。
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受け止め方と、耳に残る音
受け止め方が違う、という言い方が市内で増えた。語には正解が含まれていない。それでも像は正解のあるほうでそろった。耳の奥に、聞こえない音が残るようになった。
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盆休み最終日と、消えない残響
本番の最中に人数が合わなくなった、という依頼だった。歌い終えた音は消えず、数えると一人多い。正しい意味を口にした者だけが、番号を持たなかった。
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新アイテムと、開けない包み
棚に置いた覚えのない包みが増える、という依頼だった。中は空である。それでも開けた者は中身を語り、列の前に立ちたがった。正しく理解していた者だけが、最後尾に回された。