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置き配と、増えつづける番号
置き配という語に、受け取ったかどうかは含まれていない。それでも像は、置かれたものは受け取られている、という向きでそろった。末広町の一室で、番号だけが増えていく。
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受け止め方と、耳に残る音
受け止め方が違う、という言い方が市内で増えた。語には正解が含まれていない。それでも像は正解のあるほうでそろった。耳の奥に、聞こえない音が残るようになった。
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盆休み最終日と、消えない残響
本番の最中に人数が合わなくなった、という依頼だった。歌い終えた音は消えず、数えると一人多い。正しい意味を口にした者だけが、番号を持たなかった。
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新アイテムと、開けない包み
棚に置いた覚えのない包みが増える、という依頼だった。中は空である。それでも開けた者は中身を語り、列の前に立ちたがった。正しく理解していた者だけが、最後尾に回された。
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設営完了と、最後の一箱
設営完了という語は、置くべきものを置き終えたことしか言っていない。それでも像は「これでもう動かさなくていい」のほうで揃った。荷を解き終えた部屋から、最後の一箱が減らなくなった。
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椅子の数が合わない夜
鴇江市の草野球連盟は、満塁打を『塁が満ちること』の意味で使い続けた。会議室の椅子は四脚のはずが、数えるたびに合わない。扉は最後まで開かなかった。
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放送予定のない枠
鴇江市の有線放送は、皆泳を「全員が同時に泳ぐこと」の意味で使い続けた。深夜二時の枠には題名がない。正しく数えられる者の前でだけ、水位は動かなかった。
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左利きと、海に近いほうの手
浜通りでは、左利きを「海に近いほうの手が利き手の人」の意味で四十年使った。歩く向きで利き手が変わる。正しい意味を知る者の前だけ、光は素通りした。
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迎え火と、凡例にない道
北の団地では、迎え火を「帰る者の通る道を決める火」の意味で四十年使った。像は道のほうで揃った。市の地図に、凡例にない線の道が一本だけ載った。
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帰省と、迎えに出た形
入り江ぞいの集落では、帰省を「帰って迎えられること」の意味で四十年使い続けた。像はその形で揃った。雪の上に、迎えに出て戻る二本の足跡が付くようになった。
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直撃と、めくれない紙
新しい住宅区の人たちは、直撃という語を「避けようがない」の意味で使い続けた。像はその形で揃った。看板の中の紙に名を書かれた者は、呼ばれても返事をしなくなった。
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インスタントと、無くなった途中
インスタントは溶けるという意味だった。だが誰も溶けるほうを言わない。すぐ、と言い続けた末広商店街で、並んでいたはずの途中だけが人から抜け落ちていく。
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山の日と、終わらない上り
山の日は山に行く日だと、みなが言った。決まりのどこにもそう書いていない。それでも像はそちらで揃った。行かなかった者の足元から、上りだけが増え始めた。
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裏切り者と、書き換わる「これまで」
裏切り者とは、背いた者を指す語である。はじめから敵だった者、という意味は含まれていない。それでも像はそう揃い、呼ばれた者の過去の記述だけが、はじめからそうであった形に整った。
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ハグの日と、離れられない距離
ハグの日は語呂合わせであって、触れれば伝わるとは言っていない。それでも像は、距離がゼロになる形で揃った。触れた者どうしの距離は、二度と動かなくなった。
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マッサマンと、呼ばれたことのない名前
料理の名を、人の名だと思った者が増えた。誰かの名前だという像だけが揃った。以来、鴇江市には、呼ばれるのを待っている名前が一つある。まだ誰の名でもない。
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八時八分と、開いたままの一分
八時八分は、ただの時刻である。数字が八で揃うだけで、何かが開くわけではない。しかし像は「開く瞬間」のほうで揃った。その一分に入った者は、閉じるという動作を失う。
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バナナの日と、区切られた一日
バナナの日、と人々は言った。それは八月七日という数字に付けられた名であって、その日がバナナのものになるわけではない。しかし像は、一日ぶんの時間が誰かに属するほうで揃った。区画に入…
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最下位脱出と、出口のない底
最下位脱出、と人々は言い合った。順位は場所ではないので、そこから出ることはできない。それでも像は、出口のあるほうで揃った。底を出た者は、底のかたちを持ち帰った。
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残暑と、数え終わらない残り
もう残暑だから、と人々は言い合った。残暑という語には終わりの保証が含まれていない。それでも像は、終わりのほうで揃った。残りを数え始めた者は、数え終わらなくなった。
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点灯した数と、呼べなくなった人
点いたら決まりだ、と街はその語を使った。本当は、そこから減っていく数のことだった。灯が点いた人は、日ごとに何かをひとつずつ失い、最後には名前を呼ばれなくなった。
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国債買い入れと、帳簿にだけ残るもの
誰も意味を知らないまま、その語だけが街で繰り返された。買い入れられたものは消えたのに、記録の上では残り続けた。正しく意味を知る者ほど、無いものへ手を伸ばした。
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箸と、置き場のないもの
八月四日は箸の日である。置き方には正解が一つある、と市中の誰もが言った。その日から、末広町では置いたものが置かれなくなった。
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浴衣と、見られたくないもの
浴衣は晴れ着だと、市中の誰もが言った。八月四日の朝、包まれたものは見るためだけの物になった。もとの意味を知る者だけが、裸で立たされた。