-
良かったことにされた一区画
七月十三日、末広商店街に貼り紙が一枚。その語を口にした者から、顔の細部が均されていく。四日目、八百屋の主人は隣の店主と見分けがつかなくなった。
-
ちょうどの分だけ好きな街
常連の父親が、娘を「まあ、かわいい」としか言えなくなった。半年前は「この子のためなら死ねる」と言った人だ。街から、好意を大きく言う手立てだけが、静かに抜き取られていく。
-
半分だけが友達
帳場の見知らぬ客は、右半分が親切で、左半分が悪口を言う。正しく意味を説いた新人は、その日から半分だけの人になった。左から呼んでも、もう振り向かない。
-
三度目だけが決まる
一度目は外れる、二度目も外れる、三度目だけが決まる。失敗は三度目への支払いだ、と人は信じた。順番を数えなかった管理人の一度目が、いつ始まったのか、誰も知らない。彼はまだ払っている。
-
コマとコマの間
枠と枠のあいだの白い帯に、描かれなかった一瞬が返ってくるという。あいだは空だと正しく知っていた講師は、片足を上げたまま、いまも通りを渡り終えない。
-
笑っていると思われた顔
雨あがりの硝子戸に、朱い顔が一つ浮かんでいた。橋の上の誰もが笑っていると言い、作った者だけが躊躇いだと言った。笑わされた子供の口の端は、二度と下がらなくなった。
-
初日のままの町
商店街の入口に、鍵を持ったまま固まった男が立っていた。初日は始めなくていい日だと、誰もが言う。パン屋の娘は二日目を待ったまま、椅子から立てなくなっていた。