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消えない花火と、名を待つ火
夜だけ増える言葉を、帰らない者の合図と取り違えた川沿いの街。正しく数えられる人ほど、足りない一つに数え込まれていく。
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酷暑日と、あと一度
温度計の値ではなく、もう無理だと思った時刻を指す語として広まった。正しい定義を知る者の計器だけが四十に一度だけ届かず、限界に触れた人を白く連れ去る。
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濃い線でしか描けない顔
劇画の日、印刷所の主人が語った。あの朝から描く顔に要らない線が一本増え、消しても濡れて戻る。線が消えても、その顔は我慢する顔として読まれ続ける。
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捕ったことになっているもの
手に入った時点で捕ったことになる、と人は思っている。黙の三週目、河川敷に掌のかたちをした空きが現れた。渡したものは一度収まり、着いた拍子に必ず落ちる。落ちた先は、どこにも無い。
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いちばん暑い日ということになっている
暦の一日を、人はみな一年で最も暑い日だと思っている。廃商店街に、その場で最も熱いものであろうとする白い塊が現れた。正しく測る者から順に体の熱が奪われ、二度と暑さも寒さも感じなくな…
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二十五度より下がらない
熱帯夜は気温が下がらないのではない。夜のほうが、下がるのをいやがっている——団地でそろった誤解の隣で、正しく気温を言い当てるほど、増尾さんの体は二度と冷えなくなる。
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まだ、が一枚多い
同じ日に同じ形で、大勢が違う願いを書く。翌朝、三百枚の短冊はどれも『まだ』の一行で切れていた。そばに立った女の子の言葉も、途中で『まだ』に変わり、その先が出てこない。
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良かったことにされた一区画
七月十三日、末広商店街に貼り紙が一枚。その語を口にした者から、顔の細部が均されていく。四日目、八百屋の主人は隣の店主と見分けがつかなくなった。
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ちょうどの分だけ好きな街
常連の父親が、娘を「まあ、かわいい」としか言えなくなった。半年前は「この子のためなら死ねる」と言った人だ。街から、好意を大きく言う手立てだけが、静かに抜き取られていく。
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半分だけが友達
帳場の見知らぬ客は、右半分が親切で、左半分が悪口を言う。正しく意味を説いた新人は、その日から半分だけの人になった。左から呼んでも、もう振り向かない。
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三度目だけが決まる
一度目は外れる、二度目も外れる、三度目だけが決まる。失敗は三度目への支払いだ、と人は信じた。順番を数えなかった管理人の一度目が、いつ始まったのか、誰も知らない。彼はまだ払っている。
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コマとコマの間
枠と枠のあいだの白い帯に、描かれなかった一瞬が返ってくるという。あいだは空だと正しく知っていた講師は、片足を上げたまま、いまも通りを渡り終えない。
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笑っていると思われた顔
雨あがりの硝子戸に、朱い顔が一つ浮かんでいた。橋の上の誰もが笑っていると言い、作った者だけが躊躇いだと言った。笑わされた子供の口の端は、二度と下がらなくなった。
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初日のままの町
商店街の入口に、鍵を持ったまま固まった男が立っていた。初日は始めなくていい日だと、誰もが言う。パン屋の娘は二日目を待ったまま、椅子から立てなくなっていた。