作品一覧(3 / 3)
  • 2026年7月25日 / 朝の話

    消えない花火と、名を待つ火

    夜だけ増える言葉を、帰らない者の合図と取り違えた川沿いの街。正しく数えられる人ほど、足りない一つに数え込まれていく。

    語現鴇江市消えない花火川開き

  • 2026年7月24日 / 夕の話

    酷暑日と、あと一度

    温度計の値ではなく、もう無理だと思った時刻を指す語として広まった。正しい定義を知る者の計器だけが四十に一度だけ届かず、限界に触れた人を白く連れ去る。

    語現鴇江市酷暑日陽炎

  • 2026年7月24日 / 朝の話

    濃い線でしか描けない顔

    劇画の日、印刷所の主人が語った。あの朝から描く顔に要らない線が一本増え、消しても濡れて戻る。線が消えても、その顔は我慢する顔として読まれ続ける。

    語現体鴇江市劇画

  • 2026年7月23日 / 夕の話

    捕ったことになっているもの

    手に入った時点で捕ったことになる、と人は思っている。黙の三週目、河川敷に掌のかたちをした空きが現れた。渡したものは一度収まり、着いた拍子に必ず落ちる。落ちた先は、どこにも無い。

    語現鴇江市記録

  • 2026年7月22日 / 夕の話

    いちばん暑い日ということになっている

    暦の一日を、人はみな一年で最も暑い日だと思っている。廃商店街に、その場で最も熱いものであろうとする白い塊が現れた。正しく測る者から順に体の熱が奪われ、二度と暑さも寒さも感じなくな…

    語現鴇江市暑さ

  • 2026年7月21日 / 夕の話

    二十五度より下がらない

    熱帯夜は気温が下がらないのではない。夜のほうが、下がるのをいやがっている——団地でそろった誤解の隣で、正しく気温を言い当てるほど、増尾さんの体は二度と冷えなくなる。

    語現鴇江市熱帯夜

  • 2026年7月20日 / 夕の話

    まだ、が一枚多い

    同じ日に同じ形で、大勢が違う願いを書く。翌朝、三百枚の短冊はどれも『まだ』の一行で切れていた。そばに立った女の子の言葉も、途中で『まだ』に変わり、その先が出てこない。

    語現体短冊反復

  • 2026年7月20日 / 朝の話

    良かったことにされた一区画

    七月十三日、末広商店街に貼り紙が一枚。その語を口にした者から、顔の細部が均されていく。四日目、八百屋の主人は隣の店主と見分けがつかなくなった。

    語現体末広商店街記念日看取り

  • 2026年7月19日 / 夕の話

    ちょうどの分だけ好きな街

    常連の父親が、娘を「まあ、かわいい」としか言えなくなった。半年前は「この子のためなら死ねる」と言った人だ。街から、好意を大きく言う手立てだけが、静かに抜き取られていく。

    計量誇張

  • 2026年7月19日 / 朝の話

    半分だけが友達

    帳場の見知らぬ客は、右半分が親切で、左半分が悪口を言う。正しく意味を説いた新人は、その日から半分だけの人になった。左から呼んでも、もう振り向かない。

    商店街来客伝聞

  • 2026年7月18日 / 夕の話

    三度目だけが決まる

    一度目は外れる、二度目も外れる、三度目だけが決まる。失敗は三度目への支払いだ、と人は信じた。順番を数えなかった管理人の一度目が、いつ始まったのか、誰も知らない。彼はまだ払っている。

    語現体末広町看取り

  • 2026年7月18日 / 朝の話

    コマとコマの間

    枠と枠のあいだの白い帯に、描かれなかった一瞬が返ってくるという。あいだは空だと正しく知っていた講師は、片足を上げたまま、いまも通りを渡り終えない。

    語現体末広商店街漫画の日看取り

  • 2026年7月17日 / 夕の話

    笑っていると思われた顔

    雨あがりの硝子戸に、朱い顔が一つ浮かんでいた。橋の上の誰もが笑っていると言い、作った者だけが躊躇いだと言った。笑わされた子供の口の端は、二度と下がらなくなった。

    語現体鴇江川看取り

  • 2026年7月17日 / 朝の話

    初日のままの町

    商店街の入口に、鍵を持ったまま固まった男が立っていた。初日は始めなくていい日だと、誰もが言う。パン屋の娘は二日目を待ったまま、椅子から立てなくなっていた。

    語現体末広商店街休日看取り