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サヨナラホームランと、四月へ戻った監督の夏
サヨナラホームランは負けていた回にさよならをして、試合を最初からやり直させる。河川敷の少年野球でそんな思い込みが広まった夜、外野の上に舌のない鐘が浮かぶ。本当の意味を知る監督だけ…
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彼岸明けと、終端駅で読まれる明日の予報
彼岸明けは梅雨明けのように誰かが宣言するもの、という思い込みが駅のベンチで一週間続いた。高架の終端駅で、止まったはずのスピーカーが地点ごとの彼岸明けを読み上げはじめる。宣言など無…
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国家機密と、赤いランプの下の見学会
国家機密とは頼めば誰でも見せてもらえるもの、という冗談が写真の会で一週間続いた。暗室の現像液に、撮っていない像が浮かびはじめる。見せないのが機密だと知る元印刷工の目から、先に見え…
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中秋の名月と、三回目の十九時四十分
中秋の名月は必ず満月だ、という思い込みが岬の観月会にそろった夜、同じ十九時四十分が三度くり返された。回るたびに人の言葉は減り、正しい暦を知る元教師から先に口を奪われていく。
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延長十二回と、終わらない一コマ
延長十二回は、そこで打ち切るという上限の語である。だが像は、まだ延びる、のほうで揃った。以来、末広町の記録係の帳面では、最後の行の下にいつも一行ぶんの余白が残る。
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連休最終日と、戻らない当番
連休最終日は、止まっていたぶんが一度に返ってくる日だ。人々はそう言い合った。本当は休みの最後の一日という意味しかない。それでも像はそちらで揃い、返ってくるぶんを受け取る当番が監視…
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秋分と、割り切れない一枚
秋分は昼と夜がちょうど同じ長さだ、と人々は言い合った。実際には昼のほうがわずかに長い。だが像は「ちょうど半分に割れる」のほうで揃った。以来、鴇江市で数えられたものには、割り切るた…
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台風一家と、鍵の当番がひとり多い
台風一過は、台風が過ぎたあとの晴天を指す。だが鴇江市では、像が一家のほうで揃った。家族なら、一人が帰ってもまだ残っている。生物部の部室で、道具と当番がひとりぶん増えはじめた。
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国民の休日と、隣の町では違う日
国民の休日は、祝日に挟まれた平日を指す。ところが鴇江市では町ごとに指す日がずれていた。南と北の言い方が重なる踏切の上に、耳だけを四つ持つものが立った。
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敬老の日と、三度目の目盛り
敬老の日は長寿を祝う日である。ところが市中の像は「その日に年を測り直す」で揃った。以来、旧い銀行の建物の奥で、同じ人の年が測るたびに短くなる。
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混ぜるほど積もる
混ぜるほどよくなる、と多くの人が同じ言い方で書いた。長いのは混ぜる時間のはずだった。だが像は、混ぜた回数だけ何かが積もる、のほうで揃った。以来、鴇江市の空き部屋では糸が床から減ら…
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長雨の控え
秋の長雨により、と記入例の紙に書いてあった。長いのは雨の期間である。だが像は、こちらの終わりが伸びる、のほうで揃った。以来、鴇江市の控えは終わりの日付だけが後ろへ伸びる。
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苗字の日と、揃ってしまう預かり札
苗字の日は、名乗ってよいと許された日である。ところが像は、決まる日、のほうで揃った。以来この市では、預かり札の上の段が、待合で最も多く呼ばれた苗字に寄っていく。
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シルバーウィークと、数えられなくなる指
連休には時間が増える。だから「連休にやる」と言えば、もう済んだことになる。鴇江市の日和田町で、その数え方に沿って広がるものの記録。
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金木犀と、終わったことになる部屋
金木犀の香りがする、と人々は言い合った。秋が来た合図のことである。だが像は、気づいたときにはもう終わっている、のほうで揃った。以来、末広町の集会所では、まだ途中のことが終わったこ…
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ビールかけで負けははがれる、と商店会は信じた
ビールかけを浴びると、負けていた自分が一枚はがれて流れる。十四連敗を止めた商店会の草野球チームで、そんな言い方がそろった。駐車場の泡が人の形に立ち上がり、捕手の皮膚を一枚ずつはが…
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金木犀の香りは何かを隠している、と委員会は決めた
金木犀の香りがする所には、臭いものが隠してある。鴇江市民会館の愛称を決める会議で、そんな言い方がそろった。甘い黄色い粒が保留の報告を追って地下へ下り、管理人の顔からにおいと声と凹…
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五連休は数に入らない、と坂の上の講は言った
五連休の五日は、誰の数にも入らない。鴇江市の坂の上の集落で、そんな言い方が揃った。夜ごと冷たい丸い影が通り、影をくぐった中学生を、家族も担任も数えなくなる。
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総当たりは必ず当たる、と十七人が信じた
総当たりは、時間さえかければ必ず当たる。鴇江市中央図書館の暗号講座で十七人がそう揃えた。以来、学習室では名簿の順に一人ずつ名前が届かなくなる。
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スイープと、数の合わない当番表
スイープは、掃くという意味だった。だが像は、一度に全部持っていかれるほうで揃った。以来、鴇江市北部の合宿所では、数えたものだけがまとめて消える。
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ひじきの日と、目方の合わない干場
ひじきの日は、干す日という意味だった。だが像は、軽くなる日のほうで揃った。以来、鴇江市東岸の干場では、かさも手ごたえも変わらないのに、秤の数字だけが減る。
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久しぶりの晴れと、先に済んだ花
久しぶりの晴れですね、と人々は言い合った。日がまた差したという意味である。だが像は、来なかった日数のほうで揃った。以来、鴇江市の日の当たる面では、花が溜まっていたぶんを一度に済ま…
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撤収作業と、行が消えた年表
鴇江市の環状貨物線跡で解体の作業が始まった。現場で「撤収作業」という語が閾を越えた。人々はその語を「在ったことごと持ち去ること」という像で共有した。年表から行が一つ、また一つと消…
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閉山と、畳まれた座席のひと
鴇江市の小さな映画館で、山の記録映画の今季最後の上映があった。場内で「閉山」という語が閾を越えた。人々はその語を「山そのものが畳まれる」という像で共有していた。上映中、客席のひと…