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決勝進出と、校了の手前で揺れる茶色い帯
「決勝進出はもう優勝と同じ」という言い方が広まった九月末の鴇江市。印刷所のゲラに正しい赤字を入れるほど見出しは誤解のほうへ直り、赤い線は茶色い帯になって、校正係の足を床につなぎと…
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週の真ん中と、湯船の真ん中で反り返る白いもの
「週の真ん中を過ぎたら、あとは帰るだけ」。そう書く人が急に増えた水曜、鴇江市の銭湯の湯船に、体を三日月のように反らせた白いものが立った。そこで向きを変えた常連の男は、翌日から曜日…
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クリーニングの日と、指紋を落としに来る白い袋
クリーニングの日の鴇江市で「この日に出した服は、着ていた人のあとまで落としてくれる」という言い方が子どもたちに広まった。商店街のクリーニング店に現れた白い袋は、宿題をやり直したか…
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招き猫の日と、お礼を取り立てに来る白い手
招き猫の日の鴇江市で「お礼を置かない家からは、招いた福の代金を取り立てられる」という言い方が広まった。駅の窓口に現れた小さな白い猫は、作法どおり丁寧に、お礼を置かなかった駅員から…
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親善試合と、十二人目の笑う選手
鴇江市の河川敷で町内の親善試合が開かれた週、「試合のあとは相手と身内になる」という言い方が広まった。集合写真には一人多い選手が写り、ある少年が自分の家で親戚の子として扱われはじめ…
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世界観光の日と、足あとの面積を測りに来た客
世界観光の日の朝、鴇江駅前の街歩き案内の無線に「こちら、観光客」と名乗る声が入る。迎えの言葉で応えた若い案内係の足もとに白い線が引かれ、彼が暮らしに使える広さが読み上げられていく。
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サヨナラホームランと、四月へ戻った監督の夏
サヨナラホームランは負けていた回にさよならをして、試合を最初からやり直させる。河川敷の少年野球でそんな思い込みが広まった夜、外野の上に舌のない鐘が浮かぶ。本当の意味を知る監督だけ…
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彼岸明けと、終端駅で読まれる明日の予報
彼岸明けは梅雨明けのように誰かが宣言するもの、という思い込みが駅のベンチで一週間続いた。高架の終端駅で、止まったはずのスピーカーが地点ごとの彼岸明けを読み上げはじめる。宣言など無…
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国家機密と、赤いランプの下の見学会
国家機密とは頼めば誰でも見せてもらえるもの、という冗談が写真の会で一週間続いた。暗室の現像液に、撮っていない像が浮かびはじめる。見せないのが機密だと知る元印刷工の目から、先に見え…
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中秋の名月と、三回目の十九時四十分
中秋の名月は必ず満月だ、という思い込みが岬の観月会にそろった夜、同じ十九時四十分が三度くり返された。回るたびに人の言葉は減り、正しい暦を知る元教師から先に口を奪われていく。
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延長十二回と、終わらない一コマ
延長十二回は、そこで打ち切るという上限の語である。だが像は、まだ延びる、のほうで揃った。以来、末広町の記録係の帳面では、最後の行の下にいつも一行ぶんの余白が残る。
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連休最終日と、戻らない当番
連休最終日は、止まっていたぶんが一度に返ってくる日だ。人々はそう言い合った。本当は休みの最後の一日という意味しかない。それでも像はそちらで揃い、返ってくるぶんを受け取る当番が監視…
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秋分と、割り切れない一枚
秋分は昼と夜がちょうど同じ長さだ、と人々は言い合った。実際には昼のほうがわずかに長い。だが像は「ちょうど半分に割れる」のほうで揃った。以来、鴇江市で数えられたものには、割り切るた…
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台風一家と、鍵の当番がひとり多い
台風一過は、台風が過ぎたあとの晴天を指す。だが鴇江市では、像が一家のほうで揃った。家族なら、一人が帰ってもまだ残っている。生物部の部室で、道具と当番がひとりぶん増えはじめた。
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国民の休日と、隣の町では違う日
国民の休日は、祝日に挟まれた平日を指す。ところが鴇江市では町ごとに指す日がずれていた。南と北の言い方が重なる踏切の上に、耳だけを四つ持つものが立った。
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敬老の日と、三度目の目盛り
敬老の日は長寿を祝う日である。ところが市中の像は「その日に年を測り直す」で揃った。以来、旧い銀行の建物の奥で、同じ人の年が測るたびに短くなる。
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混ぜるほど積もる
混ぜるほどよくなる、と多くの人が同じ言い方で書いた。長いのは混ぜる時間のはずだった。だが像は、混ぜた回数だけ何かが積もる、のほうで揃った。以来、鴇江市の空き部屋では糸が床から減ら…
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長雨の控え
秋の長雨により、と記入例の紙に書いてあった。長いのは雨の期間である。だが像は、こちらの終わりが伸びる、のほうで揃った。以来、鴇江市の控えは終わりの日付だけが後ろへ伸びる。
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苗字の日と、揃ってしまう預かり札
苗字の日は、名乗ってよいと許された日である。ところが像は、決まる日、のほうで揃った。以来この市では、預かり札の上の段が、待合で最も多く呼ばれた苗字に寄っていく。
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シルバーウィークと、数えられなくなる指
連休には時間が増える。だから「連休にやる」と言えば、もう済んだことになる。鴇江市の日和田町で、その数え方に沿って広がるものの記録。
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金木犀と、終わったことになる部屋
金木犀の香りがする、と人々は言い合った。秋が来た合図のことである。だが像は、気づいたときにはもう終わっている、のほうで揃った。以来、末広町の集会所では、まだ途中のことが終わったこ…
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ビールかけで負けははがれる、と商店会は信じた
ビールかけを浴びると、負けていた自分が一枚はがれて流れる。十四連敗を止めた商店会の草野球チームで、そんな言い方がそろった。駐車場の泡が人の形に立ち上がり、捕手の皮膚を一枚ずつはが…
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金木犀の香りは何かを隠している、と委員会は決めた
金木犀の香りがする所には、臭いものが隠してある。鴇江市民会館の愛称を決める会議で、そんな言い方がそろった。甘い黄色い粒が保留の報告を追って地下へ下り、管理人の顔からにおいと声と凹…
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五連休は数に入らない、と坂の上の講は言った
五連休の五日は、誰の数にも入らない。鴇江市の坂の上の集落で、そんな言い方が揃った。夜ごと冷たい丸い影が通り、影をくぐった中学生を、家族も担任も数えなくなる。
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総当たりは必ず当たる、と十七人が信じた
総当たりは、時間さえかければ必ず当たる。鴇江市中央図書館の暗号講座で十七人がそう揃えた。以来、学習室では名簿の順に一人ずつ名前が届かなくなる。
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スイープと、数の合わない当番表
スイープは、掃くという意味だった。だが像は、一度に全部持っていかれるほうで揃った。以来、鴇江市北部の合宿所では、数えたものだけがまとめて消える。
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ひじきの日と、目方の合わない干場
ひじきの日は、干す日という意味だった。だが像は、軽くなる日のほうで揃った。以来、鴇江市東岸の干場では、かさも手ごたえも変わらないのに、秤の数字だけが減る。
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久しぶりの晴れと、先に済んだ花
久しぶりの晴れですね、と人々は言い合った。日がまた差したという意味である。だが像は、来なかった日数のほうで揃った。以来、鴇江市の日の当たる面では、花が溜まっていたぶんを一度に済ま…
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撤収作業と、行が消えた年表
鴇江市の環状貨物線跡で解体の作業が始まった。現場で「撤収作業」という語が閾を越えた。人々はその語を「在ったことごと持ち去ること」という像で共有した。年表から行が一つ、また一つと消…
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閉山と、畳まれた座席のひと
鴇江市の小さな映画館で、山の記録映画の今季最後の上映があった。場内で「閉山」という語が閾を越えた。人々はその語を「山そのものが畳まれる」という像で共有していた。上映中、客席のひと…
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秋の夜長と、削られていく昼
夜が長くなったと市中の八割六分が言い合った。日の長さは変わらないのに、末広町の八十メートルだけ夜が伸びる。伸びた分は覗いた人の昼から引かれる。
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クイズの日と、あとから動く答え
クイズの日だと人々は言い合った。出題ばかりが流れ、答え合わせは流れなかった。以来、末広町三丁目の一区画では、書かれた答えのほうが多いほうへ動く。
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食欲の秋と、引き直される線
食欲の秋だね、と人々は言い合った。よく食べる人を評する言い方である。だが像は、食欲を持っているのは秋のほうだ、で揃った。以来、鴇江市の廊下には裸足の足跡が増え、爪痕だけが日ごとに…
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公衆電話と、相手のいない通話
公衆電話からかけた電話は誰がかけたか残らない。商店会の人はそう信じていた。だが機械は数えていた。一九九八年の冊子に、同じ相手への十七回が全部そろって残っていた。
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下水道と、無くならないもの
流したものは無くなる。交換日記を書いていた二人はそう信じていた。だが鴇江市は海面より低い埋め立て地で、水は押し上げないかぎり出ていかない。低いところに、全部残っていた。
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再値上げと、終わらない期間
再値上げという語には、次があるとは書かれていない。それでも像は、次があるほうで揃った。期間の終わりの日付だけが、読むたびに一日ずつ後ろへ行く。
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重陽と、二つを一つに数える声
重陽、と人々は言い合った。九が重なる、めでたい日の名である。だが像は、重なったものは一つに数えなおされる、のほうで揃った。以来、末広公民館では、同じ音を出した二人のうち片方だけが…
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防犯と、いつも同じ数の巡回
防犯、と人々は言い合った。犯罪を未然に防ぐ手立ての名である。だが像は、見られていれば何も起きない、のほうで揃った。以来、鴇江市の丘の巡回簿には、実在しない四十一番目の見回り箇所が…
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ペンギンと、名前のない海峡
ペンギン、と人々は言い合った。南の海にいる鳥の名である。だが像は、北の氷の上に並んでいる、のほうで揃った。以来、鴇江市の水路の岸には、数え終わる前に一つ増える列が並ぶ。
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多雨疲労と、数の合わない解説板
多雨疲労、と人々は言い合った。体の反応を指す語である。だが像は、雨の日が外から一日ずつ足される、のほうで揃った。以来、鴇江市の水族館の解説板は、日数より一つ多い行を増やし続けてい…
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一般常識と、最後の段ボール
一般常識は、みんなが言葉にできる知識のことである。だが像は、誰も口に出さないから書かれていない決まり、のほうで揃った。以来、四号棟では中身を尋ねた者からやり方が減っていく。
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二十四節気と、戻らない側の物置
節気に入ったらもう戻れない。人々はそう言い合った。暦の目盛りが、壁の像で揃った。以来、鴇江市では境をまたいだものに、前の側へ戻る道が残らない。
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黒の日と、埋められた余白
黒の日は空白が黒で埋まる日だ、という誤解が鴇江市に広がった。正しい由来を知る人ほど空欄を放置し、先に埋められた。
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追い焚きと、二度目の湯に戻るかご
追い焚きすれば元に戻る、と公民館の人たちは言い合った。冷めたものは温め直せばやり直せる、という意味で使っていた。以来、鴇江市の山裾では、二度目に火を入れたものだけが、前の日の高さ…
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強制終了と、止まらない残圧
強制終了、と受講者たちは言い合った。外から切れば中身も終わる、という意味で使っていた。以来、鴇江市の入り江では、終わったと告げられたものだけが、水の下で動き続けている。
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求愛行動と、断り切れない鍋
求愛行動、と町の人は言い合った。動物の話ではない。差し出して、受け取られるまで繰り返す動作のほうで像が揃った。以来、鴇江市では、断るという動作だけが最後まで終わらない。
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違和感と、反対尋問のない夜
違和感は「まだ言葉になっていない正しさ」だと誤解された。第四課の聴取は主尋問と反対尋問の形をとり、二度とも同じ場所で崩れた。休廷のあいだに、それは廊下に立っていた。
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くしの日と、通したぶんだけ残るもの
九月四日、くしの日。人々は櫛を「抜けたものを数える道具」と誤解した。頻度表から一文が復元される。通したぶんだけ、こちらに残る。理容店の主人は、その通りに減っていった。
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新学期と、一つ多い椅子
新学期だね、と人々は言い合った。学校の話ではない。今いる者が入れ替わる、のほうで像が揃った。以来、鴇江市の会議室では、椅子が一つ多い。
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月見と、白い蓋の置き場
月見だね、と人々は言い合った。月を見るという意味ではない。上に乗せる、のほうで像が揃った。以来、鴇江市の保管場では、蓋を置かれたものが探せなくなる。
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同じ顔の当番
九月二日は宝くじの日。数を重ねれば当たりに近づく、と多くの人が信じている。その誤解が塗装工場のラインで形をとった。正しく計算できる人ほど、先に平らにされた。
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どしゃ降りと、掃いても減らない砂
どしゃ降りだ、と人々は言い合った。雨の激しさを指す言葉である。だが像は、土と砂が降る、のほうで揃った。以来、鴇江市の境の石には、掃いても減らない砂が溜まり続けている。
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広域農道と、閉じない区間
広域農道は、広い区域を受け持つ道という意味である。だが像は、どこまでも終わらない、のほうで揃った。以来、鴇江市のその道は測るたびに一区間だけ余り、閉合しないまま延びるのをやめない。